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東京地方裁判所 昭和32年(ヲ)268号 決定 1957年3月29日

申立人 進藤升

相手方 清水清

主文

本件異議申立を棄却する。

異議申立費用は異議申立人の負担とする。

理由

本件異議申立の要旨は、相手方は、異議申立人(以下単に申立人という)に対する抵当権実行の為、昭和二十九年十一月二十四日、東京地方裁判所に、申立人所有にかゝる、別紙目録記載の店舗(以下本件店舗という)一株に対する競売を申立て、同裁判所は、同年同月二十九日、同年(ケ)第二一〇三号事件として、これにつき不動産競売手続開始決定をなし、昭和三十年六月二十九日、その旨登記簿に記入せられた。これに対し、申立人は昭和三十一年三月二十四日同裁判所民事第九部に於て、本件店舗に対する、前記任意競売手続を停止する旨の仮処分決定(同年(ヨ)第一五〇三号)をうけ、その決定正本を執行裁判所に提出して、手続の停止を得た。しかるに、相手方は、右仮処分決定に対し、異議の申立をなした為、右仮処分事件は、同年(モ)第四二五七号事件として、同裁判所民事第九部に係属し、同年九月十七日、その口頭弁論が開かれたが、同期日に、当事者双方が出頭しなかつたので、右仮処分事件は、同年十二月十七日休止満了となつた。その結果、執行裁判所は、申立人の前記仮処分申請が取下げられ仮処分決定は失効したものと看做し、前記競売事件の進行を命じた。しかしながら、仮処分債務者の異議申立は、仮処分決定の当否を争うものであつて、仮処分申請の当否を争うものではない(大審院民事判決録第十二号第二十八巻一六二七頁、明治三十九年(オ)第四百三十五号、同年十二月十四日第二民事部判決参照)。従つて、前記口頭弁論期日に於ける休止の結果、取下が擬制せられるのは、仮処分決定に対する異議申立であつて、仮処分申請ではないから、前記仮処分決定は、失効していない。よつて申立人は、「東京地方裁判所執行吏は、本件店舗に対する前記競売手続を続行してはならない」との決定を求める為、本件異議申立に及んだというにある。

申立人主張の事実は、当裁判所昭和二十九年(ケ)第二一〇三号建物任意競売事件の記録に徴し、明である。しかしながら、当裁判所は、仮処分異議申立事件に於て、口頭弁論が開かれ、その期日に当事者双方が出頭しない結果、取下と看做されるものは、仮処分異議申立ではなく、仮処分申請そのものであると解する、申立人が引用する大審院判例は、申立人主張の趣旨に解せられるべきものではない。その故、前記仮処分決定は、昭和三十一年十二月十七日の経過と共に、失効したのであつて、当裁判所が、爾後その競売手続を進行せしめたのは適法である、執行吏がその手続を停止しなければならぬ理由は、少しもない。よつて本件異議申立は、失当としてこれを棄却し、申立費用の負担につき、民事訴訟法第二百七条第九十五条本文第八十九条を適用して、主文の通り決定する。

(裁判官 鉅鹿義明)

目録

東京都墨田区須崎町八十六番

家屋番号 同町八六番の四

一、木造瓦葺モルタル塗二階建店舗 一棟

建坪 三十三坪五合四勺

二階 二十二坪九合九勺

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